私たちの身体には、危険から身を守るための巧妙なシステムが備わっています。その一つが、筋肉の伸び具合を測るセンサーです。このセンサーは、筋肉が急激に伸ばされた際に損傷から守るため、「縮め！」という信号を瞬時に送ります。これは「筋反射」や「伸張反射」と呼ばれる、筋肉本来の防御機能です。

しかし、特定の条件が揃うと、この「縮め！」という信号がループして送られ続ける現象が起こります。私たちはこの現象を「筋肉ロック」と呼んでいます。これは、まるで自動車のシートベルトが、急ブレーキでロックがかかった状態に似ています。シートベルトは強いテンションがかかるとロックしますが、そのテンションがかかり続けると、ロックが解除されないのと同じです。

筋肉のロックも同様に、一度ロックされてしまうと、そのテンションがかかり続けた状態になり、なかなか自力で解除することができません。この状態が、長年の不調や痛みの根本原因となっているのです。

筋肉が硬くなる原因は、一般的に知られている「老廃物」と、血流悪化によって引き起こされる「エネルギー不足」があります。マッサージなどで血流を良くすると、これら二つの原因は一時的に改善されるため、多くの方は「良くなった」と感じます。しかし、根本原因である「筋肉ロック」が残ったままだと、再び血流が悪化し、痛みが戻ってしまうのです。

ロックした筋肉に強い刺激を与えたり、無理に伸ばしたりする（＝テンションをかける）のは、ロックしたシートベルトをさらに強く引っ張るようなものです。これでは、ロックが解除されないどころか、かえって筋肉を緊張させてしまう原因になります。

一つの筋肉がロックすると、その機能が低下するため、他の正常な筋肉への負担が増加します。これは、まるでチームの一員が動けなくなり、他のメンバーがその分の仕事をすべて引き受けなければならなくなる状態に似ています。

たとえば、10kgの物を持ち上げる動作があるとします。通常は複数の筋肉が協力して持ち上げますが、もしそのうちの半分がロックして動かなくなったらどうなるでしょうか？残りの動ける筋肉が、動けない筋肉の分まで（つまり、このケースだと2倍の20kg）の負荷を背負わなければなりません。

このように過剰な負荷をかけられた筋肉は、疲労し、硬くなることでロックを起こしやすい条件を満たしてしまいます。そして、ついには自らもロックを起こしてしまうという負の連鎖が生まれます。

この悪循環こそが、施術を受けてもなかなか良くならない、あるいはすぐに元に戻ってしまう原因なのです。