施術の「正しさ」は、なぜぶつかるのか|研究と現場観察をつなぐ視点
施術や研究の世界では、自分が確かめてきた結果と異なる報告に出会うと、「どちらが正しいのか」という話になりがちです。
施術を受ける側にとっても、専門家ごとに違う説明をされれば、何を信じればよいのか迷ってしまいます。
しかし、異なる結果は、本当に矛盾しているのでしょうか。
一つの成功体験が、視野を狭めることもある
施術家の中には、自分自身や大切な人が良くなった経験から、その技術を学び始めた方が多くいます。その経験も、そこから生まれた確信も、とても大切なものです。
一方で、強い成功体験があるほど、「この方法こそが答えだ」と、ほかの可能性を受け取りにくくなることがあります。これは施術家に限りません。研究者であっても、長年取り組んできた仮説や専門領域を中心に、現象を捉えてしまう可能性があります。
ある方法で良くなった人がいることと、その方法ですべての人を説明できることは同じではありません。
2009年から筋紡錘を探究してきて感じること
私は2009年から、筋紡錘と筋肉ロックの仕組みについて、施術現場で観察と検証を重ねてきました。
一般に筋紡錘は、筋肉の長さや伸ばされる速さを捉える感覚受容器として説明されています。しかし、施術現場で繰り返し起きる反応を見ていると、その説明だけでは捉えきれないように思える現象があります。
だからといって、一般的な説明が間違っていると言いたいわけではありません。実験で測定されている現象と、施術現場で観察している現象では、条件や見ている範囲が違う可能性があるからです。
ブラジキニンと圧痛の研究から見えること
同じことは、痛み、とりわけ押したときに感じる圧痛についても言えます。
1999年のヒトを対象とした実験では、健康な前脛骨筋へブラジキニンを注入すると、低度の筋痛は生じましたが、圧痛閾値は変化しませんでした。
ところが、同じ研究グループによる別の実験では、セロトニンの後にブラジキニンを投与すると、筋痛が強くなり、圧痛閾値も低下しました。
この二つの結果から、「ブラジキニンが圧痛の原因である」「ブラジキニンは圧痛に関係しない」と、どちらか一方へ単純に決めることはできません。
何と組み合わさっているのか。どのような身体の状態なのか。いつ、何を測定したのか。条件が違えば、観察される結果も変わり得ます。
私が着目している「流れ」という条件
私が着目している条件の一つは、局所で血液が流れているか、流れが阻害されているかという違いです。
筋収縮によって毛細血管が圧迫され、局所の流れが阻害されている場合、ブラジキニンがその範囲にとどまりやすくなる可能性があります。
その状態で押圧すると、限られた範囲の中で物質が移動し、受容器へ届く可能性が高まるのではないか。一方、流れが保たれていれば、同じように押しても条件は異なるのではないか。
これは、施術現場で圧痛が現れる場合と消える場合を観察する中で立てている私たちの仮説です。この一連の過程が直接測定され、確認されたわけではありません。
また、緊張型頭痛のある人の活動性トリガーポイントでは、血流低下を認めなかった研究もあります。すべての圧痛を、一つの仕組みだけで説明できるとも考えていません。
「どちらが正しいか」から、次の検証へ
既存研究の結果は、私たちの仮説を直ちに否定するものではありません。同時に、現場で説明力があるというだけで、仮説が証明されたことにもなりません。
必要なのは、それぞれが何を観察し、何を測定し、どの条件がまだ扱われていないのかを分けることです。
施術現場の観察を、測定可能な問いへ変える。研究で得られた結果を、現場で起きている現象と照らし合わせる。
正しさをぶつけ合うのではなく、まだ分かっていないことを一緒に確かめていく。その往復によって、どちらか一方だけでは見えなかったものが見えてくるのではないでしょうか。
参考文献
Babenko et al. European Journal of Pain. 1999;3(2):93-102.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10700339/
Babenko et al. Pain. 1999;82(1):1-8.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10422653/
Moraska et al. Archives of Physical Medicine and Rehabilitation. 2026;107(5):914-923.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41033570/
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鮎川史園(あゆかわ しおん)
ゼロ化整体 開発者・代表セラピスト
筋肉ロック理論の研究に15年以上携わり、ゼロ化整体を独自開発。2万人以上の施術実績を持ち、著書4冊(累計6万部)を出版。武学融合技術による独自アプローチで、慢性痛の根本改善をサポートしています。
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